東京地方裁判所 昭和30年(レ)118号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実〕被控訴人(原告)は昭和二三年初頃前主宮崎満から本件宅地八二坪九合を買い受けて所有権を取得したもの、控訴人(被告)は従前から右宅地の一角に約一坪五合のバラック屋台を建てて焼鳥屋を営業しているものである。被控訴人に対し昭和二三年五月上旬頃、控訴人が他に移転先を見付けるまでの間ということで、一時的に右一坪五合の土地を使用を許したにすぎない、その際控訴人から保証金として金三千円を受領したことはあるが、それは立退の際返還する予定のもので使用貸借たることを動かすものではないとして、使用貸借契約を解除し建物収去土地明渡を求めた。控訴人はこれに対し、本件土地のうち約一坪については被控訴人の前主当時から賃借権をもつていて、被控訴人もその承継を認むべきであるとを主張するが、更に現在の場所約一坪五合について昭和二三年六月一日被控訴人との間で、権利金三千円、期間満二十年、賃料は追つて定めるとの約定で普通建物所有を目的とする賃貸借契約が成立していると抗争した。
〔判断〕判決は、控訴人が従前もつていた約一坪の賃借権は被控訴人が本件土地の所有権を取得した当時既に消滅していたと認定し、かつ被控訴人との間には、被控訴人が本件土地の所有権を取得した後本件土地の整理をした際に、約一坪五合の部分につき、控訴人が他に移転先をみつけるまでの間と期間を限つて一時使用のための使用貸借契約が成立したものと判断し、その際控訴人から被控訴人に支払われた保証金三千円は敷金と同性質のものであり、その授受が使用貸借たることに影響を与えることはないとして、次のように説明している。曰く、
「控訴人は、控訴人被控訴人間に授受せられた右の金員が権利金でないとしても、その保証金が敷金の意味であるならば、使用貸借契約において敷金が支払われることはなく、敷金を伴う貸借契約はすべて賃貸借契約であると主張するので、この点を検討するに、敷金がしばしば保証金なる名称を以て呼ばれることは裁判所に顕著な事実であり、かかる意味における保証金が敷金と同様、その性質上主として不動産賃貸借契約において賃貸借契約存続中に生じた賃貸人の債権を担保することを目的とするものであることは疑いない。しかし、使用貸借契約においても、賃料債権以外に、存続中その担保すべき債権の存在し得る以上は、かかる債権担保のため、敷金ないし保証金の使用貸借の当事者間で授受せられることは、使用貸借の性質と相容れないものではないばかりでなく、契約終了後に生じた債務は、敷金ないし保証金を以て当然には弁済充当し得ないとはいえ、猶右債務者の有する敷金ないし保証金の返還債権と相殺し得る関係にあることを考慮すれば、使用貸借においても不動産を貸与する者は敷金ないし保証金が支払われることにつき利益を有し、従つて、使用貸借契約に敷金と同様の意味における保証金が随伴する現象は、何らこれを異とするに当らないと謂わなければならない。」